株式会社ヌーラボ 橋本正徳さん

2022年6月に東京証券取引所グロース市場に上場されたヌーラボ社 代表取締役の橋本さんにお話を伺いました。ヌーラボ社はチームのコラボレーションを促進し仕事が楽しくなるサービス(「Backlog」「Cacoo」「Typetalk」「Nulab Pass」など)を開発・提供している福岡のスタートアップ企業です。私が最初に橋本さんとダイバーシティについて会話したのは6~7年前で、その際「もっと気楽に女性管理職になる人が増えていい」(男性以上に女性の方が何でも出来る人しか管理職になることを許されない雰囲気がある)と仰っていたことがとても印象に残っており、いつかじっくりお話を聞いてみたいと思っていました。

―橋本さんがダイバーシティについて考えるようになったきっかけを教えてください。

橋本さん:僕はいわゆる「男は働き女は家庭」という環境で育ち、僕自身も妻は専業主婦で特にこのテーマについて考えることはなかったのですが、会社が大きくなり海外展開を始めたことがきっかけになりました。フレンドリーなコミュニケーションに接したり、国同士のセンシティブなテーマを学んだり、多様な国の人と接することで、知的好奇心的にも気付きや学びがありました。

―海外展開をきっかけに、社内マネジメントも変えたのですか?

橋本さん:一般的にマネジメントとは学校教育のように皆同じに揃える感じだと思いますが、僕らは新しい価値観を作ることが仕事でもあるので、多様性の受け止めやちょっとずつ雑味を持った働き方のほうが、新しいものが生まれるかなと思っています。コミュケーションの点では何でも言える自由さ、何でも言われてしまう不自由さの両面ありますが、それはずっと付き合うものかなと思っています。

―多くの企業は、その辺りが面倒だったり誰かにしわ寄せが行ってしまうことを心配されますね。

橋本さん:問題が起こった際に「何でこうなったのだろう」「行き違いがあった理由は?」「こう考えているから、こうなっちゃったのかなぁ」とよく考えていますし、各問題に対してどう解決していくか、というスタンスで行動しています。何事もしっかり決めると偏りは無いし楽かもしれませんが、型を守るように仕事してしまう。周りやマネージャーが早めに気づいて対処する形が理想ですね。

―橋本さん自身が深く考えることで、色んな引き出しに繋がっているのですね。その考え方は研修などを通じて社内の皆さんにも伝えているのですか?

橋本さん:今は新入社員が入社する度、毎月研修を実施していますが、そもそも多様性を学ぶ意欲がある人を採用することが一番近道かなと。そして人は徐々に変わっていきます。多様性に興味のなかった僕がこうなるので、環境による影響はすごく大きいと思います。以前は気づかなかった「こういうジェンダーギャップがあるんだ」「この言い方だとこういう方たちに影響があるので別の言い方を考えた方がよいな」などと、試行錯誤しながら学んできました。それに社会の流れ的に知っているはずの事柄も増えてきていると思います。しかし、まだ知らない人がいるので研修を行っているところです。

―多様性に理解がありそうな方を採用し、さらに研修もされているんですね。ちなみに採用の考え方が変わったタイミングはありますか?

橋本さん:2016年の最初の資金調達ごろ採用を増やそうと思い、その増やす手前で考えました。文化醸成がすごく大事なので、組織カルチャーを掘り下げてちゃんと根付くような活動した上で採用を進めました。社内コミュニケーションを意識し、ワークショップをかなりやりましたし、色んな情報発信も行いました。僕がイスラム教のラマダンに参加した記事を見て興味を持ち入社したフィンランド人もいますよ。

リモートワークがメインだが、時には集まって打ち合わせすることも

―面白いですね!多様性がさらに多様性を呼びますよね。 ちなみに、福岡のスタートアップ業界はまだまだ女性が少ないですが、どう思われますか?

橋本さん:このテーマはすぐ形式的に「女性をリーダーに任命しよう」となりますが、本来は適任な人がなるべきで、性別に関係なく機会が平等であることが大事だと思います。ですが現状は、女性がリーダーになりにくい環境がまだあるので、女性を優先的にサポートする時期かなと思います。特にスタートアップはリケジョ(理系女性)が少ないのが原因かなと。中学までは男女差がなく、高校から女性の理系の興味関心が極端に減る現象には、親や学校の環境の問題もありそうですよね。スタートアップCEOはテクニカル面を抑えないといけないので、結果女性CEOは少ないのかなと思います。

―現状の環境がまだ認識されにくいですね。日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)が、今後パネルディスカッションに女性を入れる、女性のキャピタリストも養成するなどダイバーシティ宣言をされました。

橋本正徳
株式会社ヌーラボ 代表取締役

1976年福岡県生まれ。福岡県立早良高等学校を卒業後上京し、飲食業に携わる。劇団主催や、クラブミュージックのライブ演奏なども経験。1998年、福岡に戻り、父親の家業である建築業に携わる。2001年、プログラマーに転身。2004年、福岡にて株式会社ヌーラボを設立し、代表取締役に就任。現在「”このチームで一緒に仕事できてよかった”を世界中に生み出していく。」ために、Backlog、Cacoo、Typetalk、Nulab Passを開発・運営中。また、福岡本社のほか東京、京都、シンガポール、ニューヨーク、アムステルダムに拠点を持ち、世界展開に向けてコツコツ積み上げ中。

橋本さん: まずは女性起業家がもっと増えるといいなと思います。先日もRKB(毎日放送)主催の女性起業家応援プロジェクトのピッチ大会で審査員を務め、優秀な数名にエンジニア起業家養成スクールG’s ACADEMYの入学特典を個人として贈りました。ただ本来、性別は男女だけではなくグラデーションです。とはいえ、まずは今は女性が増えるステップと考え、女性の応援は続けようと思っています。

―ロールモデルは同性である必要はないですが、女性が少ない現状が無意識に私たちに刷り込まれていますし、かといって女性、女性と言い過ぎるのも何か、、本当にそのバランスとステップの理解ですよね。 福岡もこの数年スタートアップに力を入れていますが、女性が入りにくそうな雰囲気という声も聞きます。

橋本さん:もう超難しいです。やっぱり慣れ親しんだ男同士の方が楽ですし、コンフォートゾーンだけで運営しているとコミュニケーションも、内輪で遠慮の無い感じになりがちです。 ですが色んな方が一緒に仕事をしているので、ハラスメントにならないか、とても気を遣うようにしています。社内でも自分からは食事に誘わず「僕は今日、この後この店に行きます、来たかったらどうぞ」のように案内してコミュニケーションをとるようにしています。色んな方と交流したい気持ちと、立場上、発言にハラスメントの要素が含まれてしまわないかが気になってしまうところと、両方あります。

―多様性を理解した上での適切な自己主張や距離感が苦手なのは教育の影響も大きそうですよね。ちなみに上場前後でダイバーシティのテーマで気になったことはありますか?

橋本さん:たまたま相談できる方や上場体験者たちが40代以上の男ばかりだった結果、ヌーラボの取締役が全員男性であり、表面的に見ると多様性の少ない役員構成に見えると思います。ただ役員クラスにはいないけれど、かなり女性も活躍していますし、この数年、退職した女性は少なく、皆さん活躍されています。

―女性の退職者が少ないのはとても素晴らしいですね!私は九州全上場企業の役員構成レポートを九経調から出しましたが、女性役員はまだ少ないです。形だけ女性社外取を置いていると明言される会社もありますし、ただそういう機会でもないとダイバーシティを考えるきっかけも無いのかなとも思います。

橋本さん:形だけ整えることにはあまり意味がないですが、まずは形からでも入って行かないと、という面もあり難しいですね。ただ僕は、労働人口の厚みを増すためにも、日本はいち早くダイバーシティを進めないといといけない国だと思っています。男性だけではなく、女性や色んな人が働かないとそのままGDPに反映されると思っています。

―女性で戸惑っていたら外国人や色んな多様性のテーマの人たちをどうやってマネジメントして行くのか、男性だけでも価値観や世代間ギャップが大きいですしね。ヌーラボ社は試行錯誤されながら会社が大きくなられたのは素晴らしいなあと思います。

橋本さん:ありがとうございます。エラーが起きないマネジメントではなく、エラー前提でどうキャッチアップして改善するマネジメントに変えるのが一番大事かなと思いますね。そうすることで多様性を受け入れられることができているかな。そのかわり自律型で、年齢は問わずポテンシャルを持っていそうな人に入社してもらい、責任感を持って成長して欲しいです。多様性を認めると「わがままな意見が出たらどうするんだ」など聞きますけど、それでエラーを起こさないマネジメントに特化し色んな提案を否定してしまったら意味がないなと思います。「まずは聴いてみようよ」と思いますけどね。

―「まずは、聴いてみようよ」ですよね。ダイバーシティの掛け声だけで全然進まない、従来のマネジメントでは新規事業やイノベーションが進まないなど各企業は悩まれていますが、橋本さん自身が多様性を理解しようとする姿勢が色んなところに滲み出て、メンバーの皆さんも活躍しやすく、今のヌーラボ社の成長があるのだと改めて思いました。まさにダイバーシティマネジメントの本質について、貴重なお話を伺えました、本当にありがとうございました!

(インタビュアー MIMOSA+ 西田明紀)

株式会社ヌーラボ
URL    :https://nulab.com
本社    :福岡市中央区大名1丁目8-6 HCC BLD.
代表者 :橋本 正徳
設立    :2004年3月29日
事業内容:チームのコラボレーションを促進するサービスの開発・提供
・プロジェクト管理ツール「Backlog」
・オンライン作図ツール「Cacoo」
・ビジネスチャットツール「Typetalk」
・組織の情報セキュリティ・ガバナンスを強化するツール「Nulab Pass」