西日本鉄道株式会社

九州経済連合会会長で西日本鉄道株式会社の倉富会長と、社外取締役の松岡恭子様にお話をお伺いしました。

―西田: 今日はこのような貴重な機会をいただき本当にありがとうございます。東京ではコーポレートガバナンスコードの改定もあり多様性やダイバーシティの観点からも女性役員が増えていますが、九州の企業はまだまだこれからの印象があります。西鉄では2020年6月より松岡さんを社外取締役としてお迎えされていらっしゃいますね。

倉富会長:最近は特に多様性や国際性を求められている流れもありますが、かねてから松岡さんは福岡や街づくりへの想いが強い方だと拝見していまして、その知見を西鉄グループで発揮してもらえたらと思っていました。バスのデザイン等も含めてこれまで色んなご縁もあります。中でも、松岡さんが経営されている株式会社大央の創立50周年式典の際(2019年)、創業時に御父上が西鉄福岡駅コンコースを活用しそこから飛躍的に成長されたと、福岡駅への感謝の思いをお話しされていたのを聞き、真剣に天神をそして西鉄のことも考えていただける方だと思ったのは大きいですね。

松岡様:ありがとうございます。これまでバスの百周年記念デザインや水上公園の設計、そして西鉄が事務局をなさっていますが、天神ビッグバンの主な地権者からなる「天神明治通り街づくり協議会(MDC)」のコンサルタントやアドバイザー等、建築家としてご縁が深かったと思います。そのためいろいろな部署の方と仕事をしてきました。さらに父からは、福岡駅のコンコースを情報発信の場として使わせていただいたことが大央の成長にとっていかに大きかったかをずっと聞かされてきました。

松岡恭子
株式会社スピングラス・アーキテクツ代表取締役
株式会社大央代表取締役社長
NPO法人福岡建築ファウンデーション理事長
一般社団法人都心空間交流デザイン 代表理事
福岡市出身。1987年九州大学工学部建築学科卒業後、90年に東京都立大学大学院修士課程、91年コロンビア大学大学院建築学部修士課程修了。ニューヨーク、台湾を経て2000年から福岡を中心に活動。代表作に新北九州空港連絡橋、水上公園「SHIP'S GARDEN」など。グッドデザイン賞、福岡県文化賞などを受賞多数。2016年11月より株式会社大央 代表取締役社長。空き店舗を九州の伝統文化を学ぶ場として利用する社会実験「One Kyushuミュージアム」を2020年9月開催。2020年6月より西日本鉄道株式会社の社外取締役。

松岡様:世の中的に今、企業が女性を必要としていることは知っていますが、実際私の知見がどの程度お役に立つのかなと思うところはありました。それでもやはり会長が声をかけてくださったことは何かの導きであると思い、素直にお引き受けさせていただきました。

倉富会長:女性だからと言うより松岡さん個人としての知見をしっかり発揮してもらえる場であり、会社が成長できると思った、それが一番です。その上で女性をという流れもあり、この方以外いないと思いました。

―西田:取締役会などの様子はいかがですか。

倉富会長:取締役就任後すぐにコロナの厳しい環境で申し訳ないのですが、中長期や将来を見据えた視点からアドバイスいただいています。我々の偏った固まった考えに対し的確に広い視点からのご意見本当に助かっていていますし、取締役会自体の活性化にも繋がっています。意見交換ができる環境づくりの一翼を担っていただいています。そして一番刺激を受けているのは当社の執行役員だと思います。社内で育つと視野が狭くなってしまう面もありますが、もっと勉強し視野を広げなくてはと感じていると思います。またガバナンスは当然のこととして、色んなテーマにご意見賜り業務にフィードバックができPDCAが回り始めています。

―西田: とても素晴らしい効果ですね。他社では新しい方、且つ女性や異業界の方をお迎えし取締役会が上手くいくのだろうか、と不安に思われている経営者の声もよく聞きますので、このような素敵なお話を広くお伝えしていけたらと思います。
松岡さんは、取締役会にて意識されていることはありますか?

松岡様:思ったことはどんどん発言するようにしています。交通事業はもちろんですが多岐に渡る事業を展開されていて「西鉄はまちづくり企業」と言われます。そこにお役に立ちたいと思っています。私は海外経験も多く東京も長かったので、外からの目線も持ちつつ国内また国際競争の中で福岡という都市がどうあったら良いか、そこで発揮していただきたい西鉄の力や期待について思うところをお伝えするようにしています。コロナ禍で困難なことも多い中、会議で皆さんからしっかりしたご説明があるからこそ、「さらに」という思いが生まれています。

倉富会長:会社の将来について等の大きな課題にも知見をいただいています。昔の取締役会とは全くもう別物で、やはりコーポレートガバナンスコードの改定は大きかったかもしれません。取締役会で色んな議論をしないとダメですよと、ちゃんと道筋を示すようになっていますよね。先に目標があるのはどうか等ありますが、やっぱり流れとしては良い方向だと思います。

―西田 :九州上場企業のガバナンスコードにおける取締役会や社内の多様性の項目は、しっかり方針を記載されている企業と、今後検討しますという企業に分かれています。九州のトップランナーとして御社のような事例が増えてくると、他の企業も自社はどうしようかと本格的に考えやすいと思います。

倉富純男
西日本鉄道株式会社代表取締役会長
一般社団法人九州経済連合会会長
福岡県経営者協会会長
うきは市出身。1978年青山学院大学法学部卒業後、同年西日本鉄道株式会社に入社。おもに都市開発事業部門に従事、福岡市・天神地区の商業施設の開発・運営にあたる。2008年6月より取締役、2013年6月より代表取締役社長、福岡ビルの再開発や国際物流事業の拡大などを進める。2021年4月より代表取締役会長。2021年6月より九州経済連合会の会長も務め、農産物・食品の輸出拡大やDXによる産業の生産性向上などに取り組む。

―西田:ちなみに、松岡さんは取締役会以外でも社員の方とコミュニケーションの機会はありますか。

松岡様:ありますよ。そもそも福岡の街が良くなるには、まちづくり企業・西鉄が良くなることが大事で責任も大きいと思います。なので上層部の方だけではなく、色んな部署の方にエールを送ったり、いい仕事ができるようお手伝いができたらと思っています。またこのコロナ時代に若い人が夢ややりがいを持てるような何かをと、JR九州さんと西鉄の若手で2040年のビジネスを構想するワークショップを約1年間行いました。最終的にすごく良いプレゼンになりました。コロナ禍で改めて気づいた社会的課題にも新しい視点をもって取り組むことも大切ですし、結果それが会社のためになり、それが市民の幸せに繋がればと思います。

―西田:若手社員とも直接接点をお持ちなのですね。刺激を受けられているのではと思います。
最後に、九州の企業がもう少しダイバーシティが進むにはどうしたら良いと思いますか。

倉富会長:当社はグローバルに物流事業を展開し、現地法人が20数社の内10社程度は外国籍の社長です。そういう意味では元々女性も含めてダイバーシティ・多様性を受け入れている素地があったと思いますし、加えて今度のガバナンスコード改定の流れで、それを一層率先して地域で模範を示すような流れを作っていかなくてはという思いはありますね。

松岡様:私はアメリカ、アジアと生活し、建築設計者という専門職ですのであまり男女を意識することはありませんでした。経営者としても社員それぞれの能力をしっかり伸ばしていくことに集中しています。ただ東京に比べ、福岡は経済界の集まりで女性の姿がまだまだ少なく感じます。またこれは私見ですが、私の年代の女性は同じ会社で長く勤められる環境が整っていなかったので、結果起業した方もいると思います。今は女性も企業で長く活躍できるので、敢えて起業する方も少ないのかもしれませんね。ただ女性経営者がもっと増えた方が社会全体にとって良いと思います。自社の経営だけでなく社外取締役の立場から学ぶことは多いですし、それがより良い社会の形成にもつながるのではないかと思います。

西田:福岡愛に溢れたお話、ありがとうございました。多様な知見で御社が、そして福岡がますます素敵な街になるとともに、他の企業でもダイバーシティが進むと色んな生き方・働き方を応援できる街になるのでは思いました。本当にありがとうございました。

西日本鉄道株式会社
https://www.nishitetsu.co.jp/
本社  :福岡市博多区博多駅前3-5-7
代表者 :取締役社長執行役員 林田浩一
事業内容:鉄道および自動車による運送事業、海上運送事業、利用運送事業、航空運送代理店業、
通関業、不動産の売買および賃貸業、ホテル事業、遊園地・植物園等の経営、その他

(インタビュアー:西田明紀)